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見えない光を見る
-紫外線写真による視覚認知の拡張-

YANG XIHE  253006

研究計画

2025年4月

【研究背景】

人間の視覚には明確な限界が存在し、それは自然科学や生理学の知見により「可視光」と呼ばれる限られた波長域にしか反応せず、紫外線や赤外線などの“見えない光”を認識することはできない。しかしその可視光の波長の外側には、紫外線や赤外線のような“見えない光”が存在し、それらを感知する能力をもつ生物も存在する。例えばシャコ類の視細胞は最大で16種の光受容体によって紫外線を含む多様な波長を識別できるとされる。      

こうした“人間の視覚とは異なるイメージ”に強い関心を持ち、「人間の眼に制限されない世界を、自分の眼で見てみたい」「その姿を写真として記録したい」と思うに至ったのが、本研究の出発点である。

【研究動機と問題意識】

筆者は幼いころから、宝石鑑定をしていた母の仕事場で、紫外線ライトによる検査の様子を幾度も目にしてきた。紫外線によって浮かび上がる蛍光や色彩の変化は、物体の「見えない側面」を明らかにする不思議な現象であり、強く惹かれるようになった。 人の目には価値のない原石や割れた宝石、道端の石でさえ、紫外線下では特有の輝きを放つ。また、水飴や包装紙、野草、水槽といった日常のものも思いがけない色彩に変化し、白い椅子が蛍光ブルーに、緑の葉が赤く染まるなど、異世界に迷い込んだような感覚をもたらした。こうした体験を通じて、人間の視覚の限界を問い直し、「見えないものを見ること」への関心が芽生えた。  

 

【研究目的と意義 】

本研究は、通常人間の視覚では認識できない紫外線によるイメージを、写真という手段で記録・表現するものである。目的は、人間の視覚が捉える世界が決して絶対的ではないことを示し、見えないものへの新たな感覚や視点を開くことにある。 紫外線写真は、宝石鑑定や科学的検証に限らず、芸術表現としても有効である。可視光では捉えきれない蛍光現象や物質の構造を写し出すことで、日常の物や風景に“もう一つの姿”を与えることができる。それは、視覚表現における「リアリティ」の再定義であり、人間の感覚や知覚の限界に対する批評的な視点ともなりうる。

 

先行研究

紫外線を用いた芸術表現には、すでにいくつかの顕著な実践例が存在する。たとえば、Craig Burrowsによる花の蛍光写真や、Mateusz Wykurzのポートレート作品は、紫外線によって浮かび上がる不可視の色彩や質感を鮮やかに提示している(1)。また、皮膚に潜在するダメージやシミを紫外線で可視化する映像技術も、通常は捉えられない情報を視覚化する例として注目される。      さらに、「色盲パラドックス」に代表されるように、他者が見ている色彩や世界観は本質的に理解できないという哲学的命題も存在する。紫外線写真は、このような視覚的多様性を直感的に理解する手段としても機能し得ると考えている。  

 

研究方法 

本研究では、紫外線ライトを光源とし、人工物、鉱石、植物など多様な被写体を撮影する。蛍光性を持つ物質が紫外線に反応して発光する様子を記録し、可視光下との視覚的差異を比較・分析する。 特に、蛍光性や透明性を持ち、肉眼での見え方と大きく異なる表情を示す被写体を選ぶことで、視覚認知のギャップを際立たせる構成を工夫する。 さらに、視覚の個人差や認知の限界に関する知覚論や、「クオリア」「色盲パラドックス」などの哲学的問題を参照し(2,3)、見えないものを見せるという表現のあり方とその芸術的意義を問い直す。

 

研究計画(2年間)

●1年目:文献調査と機材選定を通じて紫外線撮影の基礎技術を検証し、可視光との比較を意識した試行撮影を行う。また、紫外線視覚を持つ生物に関するリサーチも進める。

●2年目:テーマを定めた作品制作に取り組み、展示や中間発表からの考察を反映させつつ、表現の方向性を整理し、論文と作品集として研究成果をまとめる。  

 

【参考文献】

1.   Christopher Jobson (2014)「How the Sun Sees You…」Colossal.

2.  ウィキペディア「逆転クオリア」(参照 2025年4月10日).

3.  クオリアの哲学と知識論証   山口 尚 著  

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